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  司法書士は不思議な職業

 山口県司法書士会の会報「桐友」に掲載した原稿です。
 多少長い文章ですが、司法書士制度に興味がある方は、是非読んで見てください。
 お勧めですよ。
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  「和歌山控訴審判決」についての雑感          
   ~地裁に於ける司法書士?~
          
1和歌山訴訟とは
 平成22年に和歌山で、司法書士の債務整理事案について、弁護士法違反及び善管注意義務違反による損害賠償が問われた事件である。
 概略は、次の通り。
 A司法書士が所謂クレサラ被害者の会より紹介された夫婦の債務整理を受任したところ33社より約2,200万を超える債務が判明し、過払金が約1,000万であった。A司法書士は、債権者の内、概ね、140万以内の債権債務については代理権により、140万を超えるものについては、書類作成や本人支援の手法により、債務整理を終了したが依頼者は、司法書士の行った業務に対し、不法行為による損害賠償として、依頼者の支払った司法書士報酬の返還や慰謝料を求め、提訴に至った。
 一審判決は、平成24年3月に言い渡され司法書士会の主張する個別説(140万の判定は、各社の債権額合計ではく、一社毎に決定)が採用されたものの、一部の業務は司法書士の代理権を超えているとして、損害賠償請求の一部を認めた。

2控訴審判決の内容
 上記一審判決について、依頼者側が請求拡張のうえ控訴し、司法書士も附帯控訴にて対応した。
 争点は、次の通りあった。
 ・140万のカウントは、一社毎か、各社のトータルか
 ・140万のカウントは、債務者の受益額か残債務額か
 ・140万を超える事務処理について、その手法が弁護士法違反となるか
 ・司法書士の説明と助言は適切だったか
 ・債務整理の方針に誤りがあったか
 ・引直し計算の手法は適切だったか
 ・過払金の回収が不十分
 ・報酬請求が不透明
 ・慰謝料や弁護士費用は認められるか
 上記に対する控訴審判決は平成26年5月に下されたが、概ね一審判決の内容を踏襲しA司法書士の行った140万超の過払金処理が弁護士法違反と認定され、説明・助言義務違反や慰謝料をも認められる結果となった。
 その判決の全文は、取扱注意にて、日司連経由で入手可能なので、是非とも精読頂きたい。
 勿論、判決の内容には、私個人としては納得行かないが、中でも、武富士への過払金請求に於ける裁判所の判断には、目まいを覚えた。
 裁判所は、A司法書士の行った業務に対し「全体としてみると、弁護士法72条の趣旨を逸脱する」と指摘するが、そうであれば、司法書士は、地裁事件での訴訟活動は殆ど不能となってしまう。そんな危惧を覚えたのは私だけではないはず。 
 ちなみに、相当なプレッシャーが予想された司法書士の代理人は、やはりこの人木村達也弁護士で、相手方も負けられない戦いだったのだろう、11人の弁護士軍団であった。

3判決の影響
 司法書士の代理権を巡っては、債権者主張額説と受益説、総額説と個別説、合算説と個別訴訟物説とが、司法書士と一部弁護士との間で対立している。
 上記の対立については、平成15年の司法書士法改正による代理権獲得、もしかしたら付与、及び、平成18年から本格化した過払い訴訟の総括として、今後とも各地で訴訟が提起され、様々な判断がなされると予想される。
 本件訴訟は、クレサラに関与する司法書士の誰もが被告となる可能性を示唆しており、決して他人事ではない。
 日司連においても善後策が練られるのだろうが、本件判決の内容を検討するに、本人訴訟支援の範囲が相当に限定されていることから、司法書士の中には、今後、地裁事件に躊躇する者も多いと想像する。

4富山判決
 上記に加えて、皆さんご存知とは思うが、平成25年9月の富山判決が心理的に重く伸しかかる。
 その事案の内容は、地裁事件での過払い請求における司法書士の書類作成援助を、「訴訟行為を包括的に委任するもの」と裁判所は判断し、無権代理による訴訟要件の欠如から訴え却下としたものだ。
 これは、裁判官への忌避申立等も絡み、特殊な事件だとは思うが、司法書士が頑張れば頑張る程、弁護士法違反に近づいてしまう、そんなジレンマを感じさせる判決だ。
 富山判決では、「いかなる趣旨内容の書面を作成すべきかを判断することは、司法書士固有の業務範囲には含まれない」「法律の専門的知識を有しない原告が自ら作成すべき書面の趣旨を決定し、それに即した書面を司法書士に作成してもらったとは考え難い」と判断している。
 そうであれば、例えば、0スタート計算を原告本人が理解し、司法書士に指示をしない限り、司法書士はOスタート計算による訴状を作れないことになってしまう。
 逆に、司法書士が0スタート計算の説明・助言をしなければ、善管注意義務に問われかねない。
 いやはや、司法書士はどうすれば良いのだろうか?つくづく、制度の狭間に生まれた不思議な職業だと思う。

5今後の地裁事件への関与
 司法書士に簡裁代理権が付与されるまでは裁判所との接点は、簡裁、地裁を問わず、書類作成の一点で、本人訴訟、それが当然であった。
 ところが、幸か不幸か、簡裁代理業務を司法書士が行うようになり、司法書士の地裁事件への関与が薄くなった。簡裁代理権は、功罪併せ持ったもので、結果的に、司法書士を地裁から遠ざけたのだ。
 その理由としては、司法書士が本人訴訟の手間を惜しんだ他に、外的要因も挙げられよう。     
 先ずは、弁護士の増員である。山口県に於いても例外ではなく、人数的には倍増以上、それに伴って、裁判所も地裁事件に於いては弁護士選任を勧めることが明らかに多くなった。言い方を換えれば、弁護士不足による緊急避難的な役割が司法書士に求められなくなった。
 今後、地裁事件に於ける司法書士の役割は残念ながら、益々薄れることが予想される。
 確かに、依頼人の事を考えれば、下手に司法書士が関与するよりも、当初より弁護士に委任する方が良くて、弁護士に繋ぐことが司法書士には求められているのかも知れない。
 そもそもは、司法書士は、弁護士とは違う法律家像を模索していたはず。少なくとも私の知る限り、弁護士の代理型に対し、司法書士は本人との二人三脚型を目指していた。
 ところが、現状は、簡裁代理のお蔭で、司法書士象も大きく動き、当初危惧されていたミニ弁護士へと邁進している気がする。
 地裁が遠く感じるのは、私だけだろうか。

6今後の展開
 司法書士は思い切って、地裁事件の書類作成権限を放棄してみては如何か、と最近思うようになった。勿論、それには、市民や弁護士会との政治的なバーターが必要である。
 バーターの内容は、少なくとも、140万以下の事件については貫徹する方法、例えば自らが関与した事件の上級審の代理権や執行代理権を取得する方向は如何だろう。
 それであれば、依頼人も納得し、弁護士との不要なトラブルも避けられる。
 完成された弁護士制度とは異なり、不完全な制度だからこそ司法書士は面白いのだが、現場で血と汗を流す生身の人間からすると、困った存在だ。
 私の司法書士人生もラストスパートに差し掛かった。老兵は、口数多くして消え去るのみだが、司法書士の未来は、優秀な青年司法書士達に託すしかない。
 私が20代だった頃、全青司の大会で、当時、九州大学の教授だったか?大出良知先生が話したフレーズが忘れられない。
 確か、「弁護士法72条が怖くて、司法書士が出来るか、ぐらいの気概を。」とのエールだったと思う。それは、実に心強く、前向きな気持ちになれたし、司法書士に未来も感じた。
 しかし、現在では、その気概が現実のものとなり、債務整理事件を巡っては、サラ金業者VS司法書士・弁護士の構図が、司法書士VS弁護士の様相を呈している。
 司法書士の安住の地は、一体何処だろう?
 ・不動産登記
 ・会社法務
 ・成年後見
 ・財産管理
 ・簡裁代理
 ・家事代理
 ・?
 さて、私が期待を寄せる青年司法書士に、未来図は描けているのか?
 和歌山訴訟を踏まえ、司法書士の将来を占う全ての鍵は、地裁事件にある。
 だからと言って、私は弁護士に成りたい訳でもない。
 やはり、来世は「花屋さん」が良いな。